京都旅行へ行くなら、嵐山・嵯峨野へ

桜咲く春、清い流れが涼を誘う夏、錦絵の秋、そして、音とさえぎり絶つ雪景色の冬。心洗われるような嵐山・嵯峨野の景色は、日本の四季の美しさを教えてくれます。日々を洛中で過ごす平安時代の貴族でさえ、山紫水明のこの地にひかれたといい、千年の時を超えて今に続く京都観光屈指の観光地です。

歩くだけでも誌的情景に出会う嵐山から嵯峨野へと順を追って紹介します。

『秋の京都の旅行は紅葉狩りへ行こう!』

阪急嵐山駅を降り立ち、まずは渡月橋へ

掛川(大堰川)に架かる渡月橋が有名な嵐山は、お目当ての社寺参拝や滋味深い精進料理、そして自然と調和した風景との出会いと楽しみが尽きないエリア。京都の名店がそろう商店街を歩きながら天竜寺を目指し、嵐山を借景とした素晴らしい視界が広がる曹源池庭園を鑑賞。

天竜寺北門から続く竹林の林の道を通り、たどり着く大河内山荘庭園では高台からの展望を堪能し、水と緑に囲まれて、力が抜ける癒しの散歩を楽しみましょう。

嵐山と掛川(大堰川)の美景、渡月橋

景勝地・嵐山のシンボルのひとつ渡月橋は、掛川に架かる全長155メートルの橋。9世紀前半にはすでに存在しているといわれています。渡月橋に向かうと春は新緑、秋は紅葉を映す掛川の川面の美しさに見惚れて、いつの間にか足を止めてしまうことも。

7月から9月中旬には付近の川で鵜飼が見られ、また例年12月半ばに開催される「京都・嵐山花灯路」では周辺一帯がライトアップされ幻想的な情景が映し出されます。

嵐山を借景にした天龍寺

渡月橋を渡り、少し行けば左手に庭園の美しい境内が広がります。世界遺産の天龍寺は風光明媚な景色の中の一点として存在し、室町幕府を開いた足利尊氏が、吉野で崩御した後醍醐天皇の霊を慰めるために建てたお寺です。

創建に際し、幕府はそれまで中断していた中国との貿易を再開してその利益をこの寺の建設資金としました。この貿易船の名称が天龍船といい、その後も中国貿易は続けられ我が国の経済や文化に寄与しました。天龍寺の伽藍は康永2年(1343)には整ったといいますが、その後8回の大火に遭っており、現在の建物の多くは明治の再建であります。

法堂の天井の雲龍は現代の日本画の巨匠加山又造画伯の筆。春と秋に公開されます。夢窓疎石が築いた曹源池庭園は、史跡・特別名勝に指定された一番目のもので、嵐山、亀山などの周辺の山を巧みに借景として取り入れ、絵のような美しい池泉回遊式庭園です。

情緒あふれる緑陰の道竹林の道

外と内(境内)との境界があいまいで、天龍寺の北門から竹林の道へ出ても、外と内の景色がずれないことに驚きます。すがすがしい竹の香りや深い緑に包まれ、空を覆うほど高くそびえる竹林が続き、竹林や竹穂垣が生み出す凛とした風情はいかにも京都らしさを漂わせています。

保津川の景観が一望できる大河内山荘庭園

数々の時代劇で人気を集めた大河内傳次郎の元別荘。私財を投じ、三十有余年の歳月をかけて小倉山の南麓に造園した約2万平方メートルの回遊式庭園があり、山荘からの展望が見事です。入山料1000円で抹茶と菓子が付き、ここで四季折々の庭園を眺め、ひと息ついてみてはかがでしょう。

「源氏物語」に登場する古社野宮神社

大河内山荘庭園から野宮神社へ続く竹林を楽しみつつ、源氏物語ゆかりの神社へ。境内の黒木の鳥居と小柴垣に囲まれた神社の風景は、「源氏物語」の源氏の君と六条御息所の別れの場面に描かれています。野宮神社の佇まいはどこか清廉で、今は縁結びの神様として女性に人気が高いです。

風渡る竹林の清々しさを肌で感じつつ、嵯峨野あたりの散策へ

世界遺産の天龍寺から野宮神社あたりまでで、散策を終えることが多いなか、「竹林の道」を起点に更に奥へ進むのもおすすめ。竹林が続く約300メートルもの美しい散歩道。時折り吹き抜ける風に懐かしい感覚を得ながら北上に歩いていくと、渡月橋界隈の喧噪とは違い、物静かな京の風情が感じられる常寂光寺、落柿舎、二尊院、祇王寺と続き、清凉寺へ。

そこから少し足を延ばして大覚寺まで歩くコースは、充実の一日となり特に秋は珠玉の紅葉と出会えます。

百人一首ゆかりの寺院、常寂光寺へ

野宮を出て北へ踏切を渡って左折、その先で道標にしたがって、左折すると正面に常寂光寺があります。小倉山の山麓に建つ寺、歌人藤原定家の山荘跡と伝えられており、定家はここで「小倉百人一首」を編纂しました。

寺としての歴史は江戸時代に日蓮宗の僧が隠棲したことより始まり、藁葺きの仁王門は山科の本圀寺から移築した南北朝時代の建築で、仁王像は運慶作といわれています。また紅葉の名所でもあり、カエデの古木に覆われた石段を上がると、伏見城の客殿を移築した本堂が見えます。

その背後に建つ和様と禅宗様を取り入れた多宝塔は重要文化財であり、嵯峨野の風景に見事に調和しています。

松尾芭蕉の弟子去来が住んだ地落柿舎

常寂光寺からきた道を戻り、最初の四辻を左折すると右手前方に落柿舎の門が見えます。風情ある藁葺き屋根が目を引く小さな庵で、江戸時代の俳人で芭蕉十哲のひとりに数えられる芭蕉の門人、向井去来が隠居したところです。

当時柿の木がたくさんあり、ある商人がその柿を購入する約束をしましたが、ある夜、強風が吹き荒れ翌日には実っていた柿すべてが落ちてしまったといい、落柿舎と名付けられました。門口には、かつての庵主の在宅を知らせた藁と笠が置かれ、風情を誘います。

ふたつのご本尊を祀る二尊院

落柿舎を出て北へむかうと左手に二尊院の総門。寺名にもなっているように、この寺は本尊の仏像が釈迦如来と阿弥陀如来の2体あります。釈迦が現世の人々を見守り、阿弥陀如来は来世にて極楽往生する人を迎え、現世と来世それぞれで衆生を救ってくれるということで二尊を祀っています。

総門は伏見城にあった薬医門を移したもので、参道もどことなく城郭の登城路を思わせる雰囲気です。広い参道はカエデの並木で、紅葉の馬場と呼ばれています。寝殿造りの本堂で、本堂前の庭は龍神の庭と呼ばれ九頭竜弁財天が祀られています。

茅葺の草庵が佇む祇王寺

二尊院総門を出て左へ、みやげ店などが並ぶ道を進み正面の急坂を登ると祇王寺が見えます。青竹やカエデの林のなかに佇む茅葺の庵で、平清盛の寵愛を受けた祇王と仏御前が尼となり隠棲した寺です。女人の寺らしい優しい雰囲気を持ち、庵内の控えの間にある窓は光の入り方によって影が虹色に現れるという丸い吉野窓があり、境内は秋になると一面の紅葉に包まれます。

『ひっそりと楽しめる京都旅行のとっておき穴場スポット5選!』

光源氏のモデル源融の山荘跡清凉寺

祇王寺門を下り、みやげ店や飲食店が並ぶ道へ出たら左へ。八体地蔵がある分岐点を右折し、突き当りの信号のひとつ手前の交差点を右に進むと清凉寺の門前です。光源氏のモデルといわれる源融の山荘跡に阿弥陀堂が建立されました。

本尊の国宝釈迦如来像は、体内に五臓六腑をもつ珍しい像で若き日の釈迦の姿を彫ったものと伝えられています。他にも数々の国宝や重要文化財を納める霊宝館の阿弥陀如来像は、阿弥陀堂建設当時の本尊で、源融をモデルにしたものといわれています。

天皇の離宮時代を経た、今は花と心経のお寺大覚寺

清凉寺から東へ向かい、信号を渡って道なりに進み、次の信号のある交差点には道標があり、そこから北へまっすぐのびる道の突き当りに大覚寺があります。嵯峨天皇の離宮の嵯峨院を寺院に改めた門跡寺院。いけばな「嵯峨御流」の発祥地で総司所でもあります。

宸殿には牡丹、紅梅、柳松、鶴の4間からなり、とても雅やかな空間を演出しています。秋には約300年の伝統を誇る嵯峨菊が可憐に咲き誇ります。また境内の東側に広がる大沢池という池があり、中秋の名月に「観月の夕べ」が開かれ、大沢池に船が出るなど雅な風景が広がります。

またはトロッコ列車に乗って自然豊かな嵐山や嵯峨野めぐり

渡月橋が架かる桂川上流に位置する保津川渓谷を行くトロッコ列車に乗ると、嵐山や嵯峨野を違った角度から楽しめます。JR嵯峨嵐山駅に隣接するトロッコ嵯峨駅から列車に乗り込み、亀岡駅まで渓谷を上から見下ろすように走ります。

保津峡の急峻な岩肌にのぞく四季折々の自然美は見事で、京都の自然を肌で感じることが出来ます。亀岡駅に降りると、船の上から絶景の渓谷美を楽しむ保津川下りがあり、巨石や、奇石が多い渓流を抜けるスリルと爽快感が体を満たします。

嵐山や嵯峨野は、ここにしかない独特の空気が漂います。点在する名刹を巡りながら、平安貴族に親しまれた美景を存分に楽しみ、トロッコ列車や保津川下りで自然を満喫してみてはいかがでしょうか。